制作者に聞いてみた -四本目の剣-

2018年8月に公開された「四本目の剣」(4thSword)の制作者である、ぶるくろ(bluecrow)氏(TwitterID:@bluecrow2)へインタビューを実施し、「四本目の剣」の制作・公開に至るまでの過程、次回作の構想についてうかがった。


――おはようございます。

ぶるくろ氏:おはようございます。

――それでは、まず初めに、ぶるくろさんご自身の紹介でしょうか。ぶるくろさんは「四本目の剣」の他、「組み立ての果てのヘレン」※1というボードゲームを制作していましたね。

画像はボードゲームである、「組み立ての果てのヘレン」の箱、外装である。硬質さが漂っている。

※1 2017年ゲームマーケットにて販売されたボードゲーム。 作品紹介へのリンク

ぶるくろ氏:はい。ぶるくろは15年くらいプログラマをやっています。ときどき趣味でアナログゲームを作ったりしています。「四本目の剣」も元はアナログゲームで、ルールだけが先行してある状態でした。そこで、一念発起して2018年のゴールデンウィークを生贄に捧げたのですが、デジタルゲーム化に挫折しました。

画像は「四本目の剣」公式サイトトップにある、剣士ギル、罪科持ち(ギルティー)のギルが4本の剣を操っているイメージイラストだ。4本の剣がタイトル通りでわかりやすい。

――ゴールデンウィーク……あの時のぶるくろさんは「結社」※2で日々進捗を上げるやる気の塊だった覚えがあります。

ぶるくろ氏:あれ?2017年の夏休みだったかな? まあ、なにはともあれ「シャドバ」※3のようなゲームにはならなかった形ですね。

※2 定期更新開発結社と呼ばれるディスコードの集まり。ぶるくろ氏はチャンネルを持っており、そこで日記のような制作のあれこれを書いていた
※3 シャドウバースは株式会社Cygamesのスマホ向けTCGである。

――「シャドウバース」、最近ではデジタルカードゲームの看板タイトルですね。なぜそうならなかったのでしょうか?やはり演出面ですかね?

ぶるくろ氏アニメーションしないデジタルゲームに未来は無いのか?に繋がるのですが、ゲーム業界に居たという方に聞いてみたところ、最近のゲームは動画が先にあり、その動画を元に素材を用意し、プログラマーがプログラミングする。という開発体制が多いのだそうです。一人でそれをやろうとして工数が足りなくなりました。

――なるほど、アニメーターのような役柄もこなさなければいけない、それでは一人でやるには時間が膨大にかかってしまう……。定期更新ゲームは、デジタルとアナログの中間のような存在ですよね。演出などはアナログで、しかし継続する所は、デジタル感がある。

ぶるくろ氏:そうですね。定期更新ゲームの良い所は、(セキュリティなど難しい点はありますが)テキスト形式(HTMLやJavaScriptを含む)でゲームが作れることですね。それでいて、「俺はパソコンでゲームをしているんだ!!」というデジタル感も持っている。最近はスマホも多いと聞きます。

――「四本目の剣」の試遊会では、おおよそベースである、値が大きい側が勝ち、試合にどれだけの配分をするかの駆け引きが出来ましたね。これはアナログゲームで既に考案されていたのでしょうか?

ぶるくろ氏:はい。アナログゲーム版には3種類くらいの亜種があり、ゲーム性としては1つずつ数を見せ合う形が一番面白いのでは?という結論になっていました(が、デジタルでこれをやるのは面倒)。一気型(4つの数字を割り振って、一気に見せる)のテストプレイは回路チャットにある時間差掲示板というところで行いました。

――均等に振ると、10になるから、それを11で倒せるように(※4)、と、絶対に勝てる方法を私も考えていましたが、答えが見つからなかったことを覚えています。


「四本目の剣」のルール

プレイヤーはそれぞれライフ5を持つ。試合の手順は以下の通り。

  1. 壱の剣、弐の剣、参の剣、死の剣に戦力20を振り分ける。0は可。マイナスや整数以外は不可。
  2. 次に、壱の剣と壱の剣、弐の剣と弐の剣、参の剣と参の剣で戦闘(数比べ)を行う。
  3. 数字が大きいほうが勝ち、勝ちが多かったほうが試合に勝利する。引き分けは引き分け。
  4. 死の剣は戦闘はできないが、試合で勝利した際に相手のライフを数字のぶん減らす。

ここまでが1回の試合。プレイヤー同士、3回の試合を行う。
先に相手のライフを0以下にするか、最後にライフが大きかったほうが決闘に勝利する。ライフが同じならば引き分け。


※4 10の振り方は2回勝てれば負けない考えにより生まれていた物であり、決してルールを忘れていたわけでは…ない

ぶるくろ氏:トータル20点なので5555型が一番メタられていましたね。

――ああ、申し訳ない……そうです、5555型。これは自然に生まれたメタであり、それに勝てるような形に、勝てる形を……と、読み合いがシンプルなルールの中で生まれていたことが中々新鮮でしたね。

5555型に勝つには、一つ値を増やし、6635で、参の剣ではわざと負けるように……
わざと負けるなら数値は0で構わないので、他の型に勝つために9605型に……
と、メタが自然と生まれ、それに対するメタを参加者が作り上げていく所が「四本目の剣」の面白さと言えるだろう。

――試遊会の段階では、1枚のイラストに少しNPCが会話している……と、まだまだ世界観は未知数でしたが、何かイメージしているものはあるのでしょうか?

ぶるくろ氏:ルインランドは滅びてしまうので、次の舞台はベイランドを想定しています。ベイランドの地図は既に作ってあるのですが、色々な都市があるイメージですね。

――地図が既に作ってある!?

ぶるくろ氏:ベイランドです

画像はぶるくろ氏により掲載許可を頂いた、ベイランドの地図である。
左上の滅びゆくルインランドと対象的に栄えている島国だ。

――おお…… 孤島なんですね。

ぶるくろ氏:左上にある大陸がルインランドで、ギルのせいでこの時代(「四本目の剣」から100年後くらい)にはドラゴンが支配する不毛の地になっています。ベイランドは栄えています。

――ギル、主人公のような方でしたね。1枚絵に出ているのも彼でしたっけ?

ぶるくろ氏:はい。そうです。ちなみにギルは女性です(絵が下手なので性別の描き分けが難しい)

ルインランドが滅びゆくある理由は罪科持ちのギルがパンの作り方を神々から盗んだからで、人間(や亜人)はパンを食いながら無限に戦い続けることが出来る殺戮兵器になってしまいました と、ギルがどれだけ自由気ままだったか、ぶるくろ氏に教えて貰えた。

――あっ 女性!それは失礼しました。ベイランドは栄えていて、ルインランドはギルが好き勝手したことで滅びつつある、と。

ぶるくろ氏はい。そういうイメージです。

――他に世界観はあったりしますか?

ぶるくろ氏「四本目の剣」アルファ版では、ルインランドが舞台でしたが、世界観はあまり練ってなかったですね。

――なるほど。滅びゆくことだけが確定している世界……なかなか良い物ですね。

ぶるくろ氏ベイランドは小説にするつもりだったので、別途世界観があるのですが、長いので省きます。

――小説!それはかなり世界観がしっかり固まっていそうですね。「四本目の剣」のストーリーが公開される時があれば、とても楽しみですね!ゲーム化する前に大まかな物語が既に完成されていることに驚きました。

――「四本目の剣」はどのようなユーザーに向けているのか、定期更新型ゲームの新しい製作者としての思いなど、お聞かせください。

ぶるくろ氏「四本目の剣」は、すごくシンプルですが、そのシンプルさを楽しめるユーザーに向けて作りました。定期更新型ゲームについては、GitHub(※5)にソースコードを上げることで「小粒のアイデアでも、作ってしまっていいんだ」「これを元にすればゲームが作れるんだ」という思いを伝えたいです。

実際にGithubに上がっていたファイル達
実際にGithubに上がっていたファイル達

※5 Githubはソフトウェア開発のプラットフォームであり、コードを共有したり、共同作業をすることができる。

――「作ってしまっていいんだ」で実際に作ってしまえることが、どれだけ凄いか……というのは、創作活動全般の悩みですね……

ぶるくろ氏そうですね。辛いこともあります。

――例えばどのようなことが?

ぶるくろ氏:バグが報告されているのに直せないこと、直せないからといってスケジュールを変更するとユーザの予定に支障が出ることアイデアが1週間で実装しきれないことあたりが辛いですね。

――気付いていても、直せない……それは確かに、プログラムならではの悩みですね。

完璧にバグの無い完成品を上げられるようになるには、今の時間では足りないし、技術面でも時間がかかる。動くプログラムを書くだけでもとても大変である。そしてユーザーによるありがたいバグ報告を受けても、技術面でどう直せばいいか、わかっていてもどうしようもならない時はとても辛いという

――「アイデアが一週間で実装しきれないこと」は、「私生活で『四本目の剣』の制作にかける時間が足りない所」でしょうか。

ぶるくろ氏:はい。私生活の中から時間を確保する必要があります。プライベートを捧げる覚悟、というものが求められます。

製作者はずっとプログラムを書けるわけではない、生活をしているのだから、仕事もある。その中でプログラムを少しずつ積み重ねていく……生活の殆どをプログラムに割かねばならない所など、もはや仕事と言える。参加する際は、常に制作者へのリスペクトを持ちたい物だ。

――プライベートを捧げる覚悟……制作者さんのツイッターなどを眺めていても、常に忙しそうで、遊んでいる時間がないイメージがありますね。

ぶるくろ氏:他の開発者とは定期更新開発結社で交流が少しありますが、定期ゲーは進化していくことが面白さの一つであると思うので、バグが無くなっても、アイデア実装が必要になり、やはり時間はかかりますね。

――最後に、「四本目の剣」を待っている参加者に何か一言がありましたら。私もその一人です!

ぶるくろ氏:最近忙しいけれど、なんとか時間を確保して、頑張ります……!!

――1時間に渡る取材をありがとうございました!

ぶるくろ氏:こちらこそ、ありがとうございました。

青い鴉(ぶるくろ)氏(bluecrow)
TwitterID:@bluecrow2
WEBサイト:http://www.arkhamsoft.jp/
※本記事中の画像はいずれもぶるくろ氏に掲載許可をいただき、掲載しているものです。